Web制作会社の多重下請け構造とは?発注者が知るべき業界の裏側
公開日時:2026.02.23
近年、制作プロジェクトの構造が複雑化する中で、「代理店→制作会社→フリーランス」や「お客様→制作会社→フリーランス」という多重下請け構造が増えてきています。
この構造では、情報がコピペで流れる「伝言ゲーム」が発生しやすく、品質低下やスケジュール遅延のリスクが一気に高まるのが特徴です。
このコラムでは、多重下請けが進むと何が起こるか、そのメカニズムと、発注者側が取れる対策を、実務経験の観点から整理します。
本来の健全な構造:代理店 → 制作会社
ある程度の規模感のプロジェクトであれば、次の構造は、業界的にもよく見られる「健全な前提」と言えるでしょう。
- 代理店 → 制作会社
この構成では
- 代理店がプロモーション全体の戦略やKPI設計を担当し、
- その一部としてWeb制作やクリエイティブ制作を外部の制作会社に依頼する
という役割分担が成り立っています。
制作会社側も、企画・設計・実制作・運用までを一貫して担う余地があり、責務と品質管理が比較的明確になるケースが多いです。
近年増加している構造:代理店 → 制作会社 → フリーランス
問題は、ここにさらにレイヤーが増えるケースです。
- 代理店 → 制作会社 → フリーランス(実際の作業担当)
この構造自体が「悪」というわけではありませんが、実制作担当が、外部のフリーランスに実質移行しているケースが増えてきているという点がポイントです。
パターンA:「実力が把握できるフリーランス」ならまだリスク管理しやすい
- 取引実績があり、実力が把握されているパートナー
- 業務フロー・品質基準が共有されている
という前提であれば、制作会社の「リソース補完」として機能することが多く、プロジェクト全体のリスクは比較的コントロールしやすいと言えます。
パターンB:「安いから発注」「なりたてフリーランス」への丸投げが最悪
一方で、最も危険なのは以下のような構造です。
- 実務経験が浅く、実力が十分検証されていない
- 「単価が安いから」などのコスト面の理由だけで、制作会社がなりたてフリーランスに丸投げしている
この場合、次のようなリスクが重なりがちです。
- 要件の理解や仕様の咀嚼が不十分なまま作業が進む
- ビジネス背景やKPIの意図が伝わらず、品質の低下につながる
- リスクマネジメントやトラブル対応の計画がほとんどない
- 仕様変更や事故発生時に、対応が遅れる・対応先が曖昧になる
結果として、品質低下だけでなく、プロジェクト全体の不確実性が一気に高まるのがこの構造の特徴です。
コピペ伝言ゲームのメカニズム
レイヤーが増えるほど、情報伝達は次第に「コピペ伝言ゲーム」に近づきます。
何が起きているか
代理店から制作会社に渡された要件が、
- ドキュメントやチャットで「そのまま」転送される
- 制作会社からフリーランスへも、前段の理解のズレを含んだまま、コピペで流れる
その過程で、次のような重要な要素が抜け落ちていってしまうことが多いです。
- 背景事情(なぜこの施策なのか)
- 優先順位(どの要件が本当に重要か)
- NG条件・制約(ビジネス的に許容できない範囲)
末端の実制作担当は、「この仕様を満たす」ことはできますが、「なぜこの仕様なのか」や「ビジネスゴールとの関係」が分からないまま作業するため、表面的には要件を満たしているように見えても、
- 実際にはビジネスゴールからズレたアウトプット
- あとで修正工数が極端にかかる設計
といった問題が発生しやすくなります。
スケジュールが長引く仕組み
多重下請け構造は、品質だけでなく、スケジュールリスクにも大きな影響を与えます。
見積もりが甘くなりがち
経験の浅いフリーランスは、実際の作業量を正しく見積もれないことが多く、納期前まで工数が膨らみ、最終段階で「間に合わない」状態になりやすい
複数案件の同時進行によるバッティング
1人で複数案件を抱えるケースが多く、別案件の進捗が遅れると、本案件の工数が圧迫され、予定がズレる
修正指示の往来が「伝言ゲーム」化
修正依頼が「代理店→制作会社→フリーランス」を経由して往復するため、1サイクルのリードタイムが長くなりがち
こうした要因が積み重なると、
- 気がついたら納期ギリギリ
- 最終的には、制作会社の社員が火消し作業
という状況が頻繁に発生します。
この状態は、発注者側から見ると「トータルの品質が低いのに、結局は時間やコストが増える」状態であり、非常に非効率な構造です。
発注者側で意識したいポイント
発注者側としては、「どこに発注するか」だけでなく、「誰が実際に手を動かすのか」「どのレイヤーでどの程度の管理体制が保たれているか」を確認していくことが重要です。
1. 実制作メンバーをMTGに同席させる
キックオフや初回要件定義の場で、実際に制作を担当するメンバーに同席してもらう
その場で、
- 要件に対する質問や疑問が出てくるか
- 背景の理解度は十分か
- コミュニケーションの相性は良いか
といった点を確認することで、「本当に丸投げ構造なのか否か」をある程度見極められます。
2. 名前を検索して「実態」を確認する
制作会社から提示された「実制作担当者」の名前を、検索エンジンで軽く調べてみる
場合によっては、
- フリーランスとして活動している
- 別組織の外部パートナーとして登録されている
といった情報が出てくることもあり、「自社所属という建付けだが、実態は外部」といった構造を見抜きやすくなります。
※ ただし、検索結果だけで「評価」をするのではなく、「誰がどの立場で関わっているのか」を知る材料として活用するのが適切です。
3. 社会保険適用事業所の情報からコアメンバー数の目安を把握する
日本年金機構が提供する「厚生年金保険・健康保険適用事業所検索システム」を使うと、事業所ごとの厚生年金・健康保険の適用状況や被保険者数を確認できます。
会社名・所在地・法人番号などから検索可能
被保険者数をもとに、
- 「コアでフルタイムで働いている社員がどの程度いそうか」
- 「社保のベースになっている実態の組織規模」
を推測できます。
これは、あくまで「参考情報」ですが、「実態として何名くらいのコアメンバーがいるのか」「社保の入っている社員ベースの体制なのか」を確認する材料としては有効です。
まとめ:多重下請けのリスクと対策
多重下請け構造では、コピペ伝言ゲームで背景事情や優先順位が抜け落ち、ビジネスゴールからズレたアウトプットになりやすく、見積もりの甘さ・案件バッティング・修正往復でスケジュールも遅延しがちです。
特に、経験の浅い「なりたてフリーランス」への「安いから」丸投げは、要件理解不足・レビュー体制の弱さ・リスク管理の不在が重なり、プロジェクト全体の不確実性が高まります。
発注者側で意識すべきチェックポイントは3つです。
- 実制作メンバーをMTGに同席:要件理解度やコミュニケーションを確認
- 名前を検索:フリーランスや外部の実態を把握
- 社会保険適用事業所検索:被保険者数からコア社員数の目安を推測
これらで「誰がどのレイヤーで何を担っているか」を可視化し、構造を見極めらる可能性が高いです。